2008年05月14日

あたしが母になった日の事。―そのぁ

 
遂にベッドが分娩台になった。

母さんが

「もうすぐだよ。
 あともう少しで会えるからね」

と励ましてくれた。

…ただ、分娩台としては全然適度な物にならなかった。
足のレストの角度は合わないし、グリップがいい位置になく、
ベッドの手すりをグリップ代わりにするしかなかった。

…意外と使えないんだなぁ…LDR。


分娩台に変身したベッドに分娩スタイルを取らされる。
自然と息みやすい姿勢なだけにものすごくツライのに、
助産師は

「まだ息んじゃダメよ、大きく吸って、吐いて…」

まだ逃がせと言う。


息みたい本能の衝動と、頭が降りてくる圧迫感が
痛みと一緒に津波のように来るのに飲まれそうになる。

腰から下に赤ちゃんを押し出そうとする力と、
それと一緒に赤ちゃんが強く下りようとする力。

これを耐えるのはただただ拷問だ。

一瞬正気を失いかけて何をか口走った記憶。

すぐにみんなが揃って呼吸へと導いてくれて、
何とかパニックから救ってくれる。

…ツラい。
お腹に力を入れたくて入れたくて仕方ない。

身をよじるくらいしかもう許されない状況。
待たされているこの時間がとにかく長く感じた。
口に、

「早く〜…」

と出さずにいられなかった。

息まずにいる我慢に限界を感じた頃、
戻った助産師に

「もう無理です」

と伝えた。
するとやっと助産師が

「じゃあ、次の陣痛が来たら息んでね。
 硬い便を出すような感じで、グリップをしっかり握って
 足を踏ん張って、おへその方を見るようにしっかり
 息んで」

と指示された。

もう我慢しなくていい。
後は出すだけだ。
もう少し。
もう少しで終る。

「赤ちゃんに酸素をあげようね。
 はい、すー、はー…」

と呼吸を整えるように指示される。

息みを許されると今度は陣痛が待ち遠しい。
きっと陣痛の間隔は1分もなかったんだろうけれど、
ものすごく長い時間のように思えた。

その間に呼吸を整える。

…来た。
助産師に告げた。

「吐いて、吸って、長く息んでー…」

合図に乗って息んだ。
ホントにホントに待ちに待った瞬間。
もう痛みもツラさも感じない。

…のはいいのだが。

一体どの程度の力で息めばいいのか。
一瞬力いっぱい息む事を恐れて、躊躇した。

1回目。余力を残しながら、探り探り息む。

どの方向にどのように息めばいいか、すぐに身体で判った。
…が、こんな力じゃ全然押し出せる気がしなかった。

完璧ナメてた。
これは本気でかからないといけない。
ふざけた事をしたら、ホントに長期戦になる。


次の陣痛を待つ。
赤ちゃんの心音が機械を通して響くのを聞きながら。

「コツは掴めてるから、それを繰り返していくよ。
 赤ちゃんも元気に頑張ってるからね」

助産師が励ましてくれる。

「頑張れ…」

願うように口にした。



2回目は全力で息んだ。

もう血管でも何でも切れたらいいし、
何ならいっそ痔でも腸でも出ればいいさ。

そんな勢いでとにかく全力で腹圧をかけた。
呼吸を止めていられる限界の少し前で、助産師が
息みを止めるよう指示する。

体内では明らかにもう腹よりも下、腰の中で
力をかけられている赤ちゃんが動き出すのが鈍く判る。
腰が砕けるような感覚。

もう汗だく。
母さんが濡らしたタオルで汗を一生懸命拭いてくれる。

息が苦しい。
ツライ。
酸素が欲しくて口を大きく開けて呼吸するが、
すぐに呼吸は直される。

「鼻で吸って、口で『ふー』だよ」

と。


助産師と母さん、旦那の誘導に冷静さを取り戻し、
呼吸を整えて次の陣痛を待つ。

3回目。

吐いて吸って思いっきり息む。
目眩がするほど息む。
キツイ痛みが伴うけれど、衝動が後押ししてくれる。

「赤ちゃん大分下のほうまで下がってきたよ」

と教えてくれて、息みを止めて呼吸するよう言った。
でもまだ陣痛は残っている。

「もう1回息めそうです」

「それじゃ、もう1回行こう」

再び息む。
腰の中がもういっぱいいっぱいの圧迫感。


陣痛と陣痛の間、息み待ちのわずかな時間は、
あたしの呼吸の音と赤ちゃんの心音だけで、
みんなじっと様子を見守る。

じっと呼吸をしていると、赤ちゃんの心音が徐々に
元気に大きく響いてきた。

「ほら、こんなに赤ちゃん元気だよ。
 ちゃんと酸素行ってるからね」

そうだ、あたしも頑張ってるけれどあたし一人だけじゃない。
この子も頑張ってるんだ。
拙く呼吸してるのに、この子はちゃんとその酸素を受け取って
力強く出てこようとしている。

負けるな、あたし。
頑張れ息子よ。

次こそは必ず出す。


次の陣痛。
全力の途中で恥骨が軋んだ。
これは激痛。
息んで止めている呼吸の間から、声が漏れる。

それと同時に助産師が開いているのか、
この人が押し通る為なのか、肉が引き攣れる
鮮やかな痛みがあった。

「ぐっ…痛ぁ…!!」

言葉に出た。

「はい、力を抜いて楽にして」

排臨だとすぐに判った。
息みたい衝動が一気に少なくなった。
何かものすごい大きい物が挟まってる感がある。
お腹の痛みが引けた替わりに、明らかに傷らしい
痛みがその部分にある。

さっきから他の助産師が内線電話で連絡を取っている。
多分Dr待ちなんだろうけれど、
電話に出なかったらしくて軽く焦ってる雰囲気。

どうやらそんな事をやっている間に、赤ちゃんの頭が
中に戻ってしまったらしい。
このまま留めておけない、もう産まれてしまう状況だと
助産師が判断したらしく

「うーん、いいかな。
 うん、じゃあちょっともう1回息みましょう」

と指示。

陣痛はないけれど、息めるだけ思いっきり息んだ。

するとそんなに力がかからないうちに、
スルリと身体が軽くなる感じが。

「あぁ、産まれた産まれた!!」
「はい産まれました〜!!!」

一気に沸いた。
母さんの涙声の歓声に、助産師の声。

それと同時に自分の足の間から
助産師に取り上げられた真っ赤に染まった
赤ちゃんが見えた。

へその緒をぶら下げて、しわくちゃな顔をしている子。

すぐさま助産師がチューブで鼻と口から吸引している
音が聞こえ、やっと産声を上げた。

鮮やかな活き活きとした、必死な泣き声。
確かにわが子が降り立った証。

それを確認できた瞬間にあたしの緊張感も解けて
一気にこみ上げる気持ちが押し寄せた。
やっと終った安心感、そして大きな喜び。

いい大人なのに大泣き。

やっと会えた。
そうか、しわくちゃの君がそうだったのか。
エコーで初めて会った時、陽気に踊ってたね。
元気よすぎるくらい、痛いほどお腹を蹴ってたね。

そうか、君だったのか。
良く頑張った、ね。
良く来たね。


身体を拭かれたその子を助産師が私の胸に乗せた。
まだふやけていて、ホカホカ。

ずしりと重い。
産まれたての肌の弾力。
手足を動かす力強さ。

確かな命の密度を感じた。

はるか遠くから命を受けてやってきてから10ヶ月。
私の体内でしっかりと命を育んで、やっと出会えた奇蹟。


全てに感謝の想いだった。
この子にも。
この子を一緒に授かった旦那にも。
私を産んでくれた母にも。


幸せだ。
こんな感動2度とない。

命を産めた喜びは、どんな感動よりも大きかった。



―そのイ悄

suilove9214 at 18:39コメント(0)トラックバック(0) |  

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