2008年05月09日

あたしが母になった日の事。―その◆

家を出て30分、無事に病院に到着。

「頑張って元気な子を産んでね」

と荷物を降ろしながら、タクシーの運ちゃんから
熱い激励を貰う。

ガラガラガラガラ…。
夕方の空いたロビーにあたしの引くトランクの音が
響き渡る。
やっぱりその間にも、体内から大量に出て行くものが。

なるべく胸を張って歩く意識が働く。

緊張、期待、不安、動揺…なのかな。
恐怖はあまり感じなかった。
それらを抑える理性。

何故か軽く震え。
色んな感情を含んだ心が身体を震わせたのかも知れない。


エレベーターで4階の病棟へ。
ナースステーションで名前を言い、母子手帳を預けると
看護師が先に立って分娩室へと案内された。

病棟の方は赤ちゃんの鳴き声やナースコール音で騒々しい。
そんな廊下を奥へ奥へと行くと、分娩室がある。
妙に薄暗く、静か。
だけど中は確実に静けさの中にも、誰かが闘ってる空気があった。

すぐに助産師が出てきて、尿検査と問診を受けた。
その後、内診を受ける為に分娩台へ上がるように指示される。

…おおお、分娩台はこういう風になっているのか…。

初めて上がる分娩台にちょっとビビる。
自然に力が入るその作りに、内診台にはない迫力があった。

そのせいか、半端じゃない量の羊水がダーッと流れ出した。
…こんなに出ちゃって大丈夫なんだろうか…。
もう既に「何リットル出たんだろう?」という感覚。

助産師が、

「うん、破水だね。中の上の方から破膜している状態。
 で、子宮口は1センチ開。まだまだ赤ちゃんは降りてきてないね」

と教えてくれた。

内診が済んで入院着に着替えると、LDR室の近くにある
「予備室」に通された。
2床あって、そのうちの1床には既に先客が。

ベッドに荷物を降ろすやいなや、あれよあれよと
お腹にNSTの装置を付けられ、破水してるから感染防止の為に
抗生物質を服用するように錠剤を渡された。

「多分ね、今日中には産まれなさそうだから、
 お産が進む状態になるまでここで様子を見ていくから。
 明日点滴で陣痛を付けていく形になると思うよ」

…マジかよ…。
じゃあこのお腹の軽い鈍痛は一体何なんだ??
聞いてみた。

「お腹が張ってるのと一緒に軽く重だるい痛みが
 あるんですが、これは陣痛ではないんですか?」

すると助産師は笑いながら、

「まだまだ!! そんなもんじゃないから!!
 ホントに陣痛が付いてきて始まったらそんな余裕ないからね」

そう言い残し、足早に出て行ってしまった。


…えーと。
あたしは一体今どんな状態になっているんでしょう??
このお腹の鈍痛は陣痛じゃないって事??
破水しているけど、お産が始まってる訳じゃないって事??

様々な謎をぶつける相手を失い、ポチーンとベッドに
置かれちゃってるあたし。

それからしばらくしてずっと診て貰ってた担当医が

「やぁ、思ってたより早くて良かったねぇ」

なんて笑いながら登場。

「これからここで様子見てもらってね、明日の朝9時から
 陣痛促進剤の点滴投与を始めるから。
 それで陣痛付けて、自然分娩っていう形に持っていけると思うけどね。
 いざって時は帝王切開で出す事もあるかも知れないからね。
 ま、大丈夫だと思うけれどね、それは状態と相談して、ね。
 んーとだから、どっちにしても産まれるのは多分明日の夜くらいかな。
 それじゃ、頑張ってね」

説明の内容に頭がボーゼンとしてしまったせいで、
また質問の機会を逃したあたしは愚か者。

だって想定範囲外の状況が多すぎなんだもの。

そもそも破水から始まった事で、巷の話からサクサクと
お産が進むだろうと勝手に思ってた。
これからすぐに劇的に陣痛が来て産まれるだろうと。

ホントに陣痛促進剤を使わないと陣痛は来ないの??
明日の夜って、今のあたしはそんな長い間お産が進まない状況なの??
そしてLDRで分娩の筈だけれど、一体いつまでこの
「予備室」なんていう、サブ的なトコにいなきゃならないの??

何にも見えてこないハテナだらけの状況。
始まってるのかどうかすら判らない。
でも助産師も医者も長期戦だと言っている。

…うんざりだなぁ…。
意気消沈。

さて17:00にこの予備室に来た。
一応陣痛じゃないらしい痛みと張りの記録をし始めた。

17:35。
今までよりも強めの痛み&張りに変化する。
5分間隔。
…でもこれは違うんだもんね…orz

18:00過ぎに母さんが興奮しながら到着。
大量にお茶やおにぎり、パンとかを差し入れてくれた。
状況を教えると、ずっといる訳にいかないけれど、
帰るにもこの天候に自宅と病院の行き来が危険だし、
どう判断しようね…と悩んだ。

そんな会話をしながらも時間が進むにつれ、
5分おきに来る波にちょっと黙る痛みへと変化していく。

今のうちに…ときちんと食事を摂る事にした。


19:30、今度は旦那が到着。
ちょうど来た時にトイレに立ったけれど、歩くのが辛かった。
波が来る毎に立ち止まって何かにつかまりながらやり過ごす。
…でもこれは陣痛じゃないんだもんね…orz
相変わらず動くたびに羊水が。

旦那は制服からジャージに着替えた。
明らかに旦那からは意気込みを感じる。
一方服装が厚着だった母さんは、この暑い病室でお産立会いは
キビシイと一旦帰る判断をした。

旦那と会話をしながら、痛みの記録は欠かさなかった。
5〜10分間隔の痛みはさらに増して、
波が来ている時には身体が緊張して、深呼吸で耐えるほどになっていた。
…でも、これ、違うんでしょ…orz


20:30過ぎに助産師がNSTの記録チェックと
内診をしに来た。

やっぱり進んでなく、1センチ開。
ここで助産師から、

「まだまだ進みそうにないね。
 長時間になるし、お隣に患者さんもいるから、
 旦那さんには1度帰宅してもらって、お産が進みそうに
 なったら連絡を入れるようにするから」

と旦那に消灯前に帰宅するよう促した。

止む無く旦那、21:00に帰宅。
病室内の蛍光灯も消え、明かりは枕もとのライトだけ。

まさか独りにされるなんて…orz
立会い出産だから、入院から出産まで家族が帰されるなんて
ないと思ってたのに…。

思いっきり不安になってしまった。

そんなあたしの横でNSTの機械はロール用紙に
じゃんじゃんとお腹の状態をグラフにして記録している。

痛みの波とグラフを見比べてみる。
やっぱりグラフの数値も少しずつ大きい数字を
記していた。


22:20頃、内診。
痛みもかなり押し寄せていた。
子宮口3センチ開。
進みがやっぱり遅いみたい。

身体が痛みのせいでかなり緊張し、常に力んでいる。
その様子を見て、助産師に

「身体に力が入ってると進みづらくなるからね」

と言われた。

とにかく痛みが来たら大きく呼吸してリラックスする
事に集中するよう心がけた。

そしてさらに助産師はNSTの記録紙を見て、

「陣痛が強まってきてるようだから、もう少し進んだら
 LDRへ移りましょう。
 でもね、こっちのベッドの方が休むには快適だから
 今のうちに身体も休めておくようにね」

と言った。

…!!
今『陣痛』って言った!?
この痛みの事、『陣痛』って??
やっぱりそうでしょう!?
さっき一笑にふしたクセに、
あっさりと『陣痛』だと認めるじゃないか…orz

不安が確信に変った。
お産が少しでも進んでいる事に希望が見えてきた事が
すごく嬉しかった。
俄然耐える気が湧いてきたぞ。

旦那にメールでその事を報告。
了解の返事を貰う。


5分おきくらいの間隔の『陣痛』とひたすら無言の闘い。
だけどこれは『陣痛』だ。
進んでる証だ。
前向きに捉え、ひたすら大きな呼吸で耐える。
痛みがある時はどうしても力んでしまうけれど、
痛みが引けた時はなるべく深呼吸をしてリラックスに集中。

23:20。

深呼吸とリラックスが功を奏したのか、
この頃には既にお隣の休息に邪魔にならないように
静かにしている事は出来なかった。
どうしても波のピークには、小さくも呻かずにはいられない
痛みになっていた。

様子を見に来た助産師に

「そろそろ静かにしてるのがツラくなってきました」

と告げた。

するとすぐ、

「あ、じゃあ今のうちにLDRに移っちゃいましょうか」

とあっさりLDRへ案内してくれる事となった。


―そのへ―





suilove9214 at 14:24コメント(0)トラックバック(0) |  

トラックバックURL

コメントする

名前
URL
 
  絵文字